本記事は公開資料に基づくPIXEL CORE独自の解説です。

通話が終わったあとにどれだけ仕事が残っているか

問い合わせに答えたあと、内容を記録し、確認事項を整理し、次の担当者へ引き継ぐ。CSの業務改善を考えるとき、この「通話後」にも目を向けたいところです。

お客様の説明を短くするだけでは、業務で使える記録にはなりません。何を案内し、何が未解決で、次に誰が動くのか。必要な情報を残すために、担当者が文章を組み立て直しているなら、そこはAI活用を検討する具体的な対象になります。

JR西日本グループの公開事例を手がかりに、記録業務の見直し方を考えます。

AIが要約し人が事実を確認する

2026年3月31日、JR西日本カスタマーリレーションズ(JWCR)とELYZAは、生成AIによる応対履歴作成の取り組みを発表しました。通話の文字起こしをAIが要約し、オペレーターが事実を確認。スーパーバイザー(SV)はエスカレーションされた案件をチェックする役割です。

約50%削減の対象を正しく読む

報告されたのは、「ご意見・ご要望」に分類される問い合わせの平均後処理時間(ACW)です。2023年8月の12分47秒から、2025年12月には6分23秒へ短縮。2025年11月〜2026年1月の3か月平均も6分23秒でした。

比較の起点はAI導入月であり、導入前ではありません。CS全体の工数や人員が半減したという数字でもなく、AI単独の効果と切り分けることもできません。数値は導入企業と提供企業の共同発表で、同資料には第三者による検証結果は記載されていません。対象件数や案件構成、費用、品質の定量評価は資料から確認できません。

変えたのはモデルと現場の運用

JWCRはルールブックの整備・改訂、定期研修、発話や復唱の指導を実施。ELYZAはモデル更新や、チェック要件を踏まえた要約の改善を進めました。また、運用変更に応じて、一部のチェック業務をオペレーターからSVへ移す対応も含まれます。担当者のACWだけで組織全体の負荷を判断せず、確認を引き受ける側の仕事も見る必要があります。

出典 JWCR・ELYZA共同発表(2026年3月31日)

PIXEL COREの応用提案として残す項目を決める

以下は、この事例を自社のCS業務に応用するための提案です。JWCRが実施している具体的な手順を示すものではありません。

最初に決めたいのは、AIに何文字で要約させるかよりも、記録を読んだ担当者が何を判断できるべきかです。例えば、次の項目をひな型にします。

  • 問い合わせの要旨:何について、何を求めているか
  • 経緯:発生日時、対象サービス、これまでの対応
  • 今回の案内:担当者が伝えた内容と、お客様の反応
  • 未確認事項:まだ裏付けが取れていない点
  • 次の対応:担当部署、折り返しの要否、約束した期限

特に、「お客様からの申告」と「確認済みの事実」は分けて残したい項目です。AIが自然な文章に整えた結果、申告が確定事項に見えてしまえば、引き継ぎ先の判断を誤らせかねません。

情報がない項目は推測で埋めず、「未確認」「通話内で言及なし」と扱うルールも必要です。短く読みやすいことと、必要な事実が揃っていることを、別々に確認できる形にします。

確認担当と差し戻し条件を試す前に決める

「最後は人が確認する」だけでは、誰の仕事なのかが曖昧です。試行前に、通常案件の確認者、判断に迷ったときの相談先、修正後の確定者を決めます。

例えば、オペレーターは日時や案内内容を照合し、約束した対応の記載漏れ、事実関係の矛盾、部署をまたぐ判断があればSVへ回す、といった分担が考えられます。ただし、これは設計例です。自社の権限と既存の確認業務に合わせて調整してください。

確認画面も検討対象です。要約だけを表示するのか、元の文字起こしをすぐ参照できるのかで、照合の手間は変わります。実際に確認する人に触ってもらい、「どこを探すために時間がかかったか」まで記録すると、修正すべき箇所を特定しやすくなります。

一つの問い合わせ分類で確認と修正まで測る

試行は、一つの問い合わせ分類に絞ることを提案します。対象を広げすぎると、どの種類の案件で使え、どこで修正が増えたのかを捉えにくくなるためです。

比較対象は「AIの出力時間」ではなく、「使える記録が確定するまで」です。少なくとも、オペレーターの確認・修正時間、SVの確認時間、差し戻し後の再作業を分けて測ります。担当間の確認待ちも記録すれば、作業時間は減ったのに引き継ぎが遅くなる、といった問題も見つけられます。

品質の確認では、文章の好みより、業務に影響する誤りを優先します。対応期限の抜け、案内内容の誤記、未確認事項の断定などを分類し、同じ基準で判定します。平均時間だけでなく、修正に長時間かかった案件とその理由も確認したいところです。

試行期間中は件数、問い合わせ内容、担当者の経験なども記録します。前後で簡単な案件が増えた場合、それをAIの効果と取り違えないためです。利用料や連携・教育にかかる費用も別途集計し、時間短縮だけで導入判断を終えないようにします。

展開条件は、試行前にCS責任者とAI導入担当者で合意しておきます。必要事項の欠落を増やさず、確認・修正を含む総工数を減らせたか。SVに負荷が集中していないか。これらを満たした範囲から、次の分類へ広げる判断ができます。

通話後の記録を一件取り出し、何を残し、誰が確かめ、どこで時間を使っているかを書き出してみる。自社のAI活用を考える入口として、まず取り組める作業です。